MIZUKAZE PROJECT STORY

瑞風プロジェクトストーリー

March 2024

vol.5

「瑞風」が届ける、歴史、文化、美しい日本の姿。

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 第5回目は、立ち寄り先の一つである雲南市と、ご案内を予定しているスポットについてリポートします。

 TWILIGHT EXPRESS 瑞風では、すべてのコースで特別な内容の立ち寄り観光を予定しており、現在、その準備を進めています。今回は島根県雲南市産業振興部商工観光課の鶴原隆さんを訪ね、お話を聞かせて頂きました。

 島根県の東部、海岸線を持たない内陸部にある雲南市は、2004年に6町村が合併してできた新しいまちです。とはいえ、土地の歴史は古く、その始まりは神話の時代。「古事記」に書かれている、スサノオノミコトがヤマタノオロチ退治を行った伝説の地は、市内を流れる斐伊川流域。古代出雲の強大な勢力を物語る遺跡など、神代から続く人々の足跡が豊かな自然の中に点在する、ロマンに彩られた古郷です。

 「先日、他県の方と『武将』について話をする機会がありました。みなさん、織田信長派とか豊臣秀吉派とか言っておられて少々驚きました。私たち雲南の人間にとっては、歴史上の英雄=スサノオノミコトとかオオクニヌシノミコトなので…」と笑う鶴原さん。pic_vol5_2
神話の時代からのゆったりとした時が流れる、雲南らしいエピソードです。
 神話の郷でもある雲南市が「瑞風」の立ち寄り地になったことについて、「こんな光栄なことはないと市を挙げて喜んでいます」と鶴原さんは目を細めます。「瑞風」のコンセプトでもある「日本の美の再発見が、まさに雲南市では体感できます。古き良き日本、その始まりのまち、日本人の心のふるさととも言うべきこの地で、思い出に残る時を過ごして頂ければ嬉しいです」。
 「瑞風」乗車のお客様に同行するガイド数名の養成もスタート。「以前から市内でガイドを務めて頂いている方たちなのですが、何を聞かれてもお答えすることができるよう、さらにスキルアップを図っているところです」。生まれも育ちも雲南市の鶴原さん。立ち寄り観光先として伺う予定のスポットについて、その魅力を教えて頂きました。

唯一現存する、たたら遺構。

 島根県一帯では、原料となる砂鉄を熱で溶かして鉄を作る炉「たたら」製鉄が古くから盛んに行われてきました。最盛期(江戸時代)には、日本中で使われる鉄の約8割が雲南市を含む奥出雲地方を中心に、中国山地一帯でつくられていたそうです。なかでも中心的な役割を担っていたのが、雲南市吉田町に拠点を置く田部家。25代目となる若き現当主は、今も市民の敬意と注目を集める存在です。

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 その田部家が営んでいた「菅谷たたら山内」(※注1)の製鉄施設である高殿(※注2)は、170年にもわたって操業され、多い時で年間200トンもの鉄を生産しました。高殿様式を残す全国唯一のたたらとして、昭和42年(1967)に国の重要文化財に指定されています。
 鶴原さんは、「高殿は1751年に開設されました。2014年末に改修工事を終えた高殿の歴史的な迫力を、ぜひ感じてもらいたい」と話します。高殿の周りには当時をしのばせる集落が残っており、今もたたら操業に携わった方々の子孫が暮らしているそうです。

自然の恵みを、飾らず、ていねいに。

 養鶏や酪農、農業が盛んな雲南市では「卵・牛乳・米・野菜の多くを地域内でまかなっています」と鶴原さんは胸を張ります。その農産物を使った加工品作りも盛んに行われている雲南は、まさに食の宝庫。その健やかな味覚を「食の杜 室山農園 かやぶきの家」では堪能して頂きます。

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 築130年の茅葺き古民家の食卓に並ぶのは、地域のお母さんたちが採れたての野菜や地元の卵・米で丹精込めて作る郷土料理とお母さん達のおもてなし。思いのままに箸と話をすすめれば、どこか懐かしく感じていただけることでしょう。

日本初之宮にて、神々を感じる。

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 日本最古の歴史書とされる「古事記」には、ヤマタノオロチを退治したスサノオノミコトは、クシナダヒメと共に出雲国須賀の地に至ったと記されています。そこで美しい雲が立ち上る様子を見て、日本で一番古い歌である「八雲立つ 出雲八重垣 つまごみに 八重垣つくる その八重垣を」と詠まれました。その一節から「出雲」が国名になったと言われています。「どんな時でも、どんなものからも、あなたをお守りしますという、いわば日本初のラブソングなのでは」と鶴原さんは捉えているそうです。
 二神が造られた宮殿域、日本初之宮・和歌発祥の地に建つのが須我神社です。その由緒にちなみ、縁結びや子授け・安産の社として、地元はもちろん、遠くからお参りに来られる方が後を絶ちません。

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 須我神社前にある「神楽の宿」(※注3)では、ヤマタノオロチの神話を演目にした伝統芸能「出雲神楽」を観覧いただきます。時には県外のホールなどで上演されることもありますが、昔ながらの茅葺き古民家内で目の当たりにすることができる神楽は、手を伸ばせば届きそうな距離で演舞し、息遣いまで伝わってくることでしょう。
 その一挙手一投足は、代々口伝えで守ってきたもの。顔も見たことがない祖先、この先生まれるであろう子孫、どの時代の人々にも寸分違わぬ出雲神楽を観せるため、「舞手はバトンの役目も担っているのです」。

 雲南市としての歴史は浅いため、「全国的に知名度があるとは言えませんが、「瑞風」の立ち寄り先になったこの機会に認知して頂けると嬉しいですね」と鶴原さん。沿線の魅力を知ってもらいたい。「瑞風」はその想いと共に、美しい日本の地を駆けぬけます。

※注1/山内
たたら製鉄に関する職場すべて、従事していた人達の家といった生活圏の総称。

※注2/高殿
炉やふいごを含めた、建物全体を意味する。

※注3/神楽の宿
宿泊施設の意味はなく、神楽を舞う場の名称として使われている。市内ではこの施設だけを「宿」と呼ぶ。

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