前回に引き続き第7回も、TWILIGHT EXPRESS 瑞風のお客様を歓迎する「おもてなし」の取り組みについてご紹介します。島根県浜田市にある浜田市立長浜小学校は、「瑞風」が走る山陰本線の線路に沿って校庭があります。そうした縁から、「瑞風」の通過時には、生徒たちが思い思いのやり方で、乗客のみなさんを歓迎してくれています。こうした心温まる取り組みが生まれたきっかけは、地元を愛する一人の思いからでした。
浜田の人の「あたたかさ」を伝えたい
浜田市役所維持管理課の職員でもある大賀浩文さんは、2016年5月、ボランティア活動として、浜田駅の北側道路に花を植える取り組みをスタートさせました。「石見地方の人は、『人がいい』『情が深い』と他の地域の方からよく言われるんです。私自身もそう感じるところがあって、見ず知らずの人にも丁寧に道案内をしたりする姿をよく見かけるんですね。そういう浜田の地域性をPRして、列車に乗って来られる方へのおもてなしができないかと思ったんです」(大賀さん)
大賀さんが地元の人たちやJR西日本浜田鉄道部と共に地道な活動を続けるうちに、「瑞風」の運行が決まり、「瑞風」が浜田の街を走ることになりました。また、JR西日本米子支社が主催する「第2回山陰みらいドラフト会議」において、島根県立大学の学生が企画した、沿線全体を庭に見立て、花を植えて「瑞風」を歓迎しようというプランがグランプリを獲得。このプロジェクト実現のために、「浜田地区おもてなし連絡会」が組織され、大賀さんたちも「駅北を花で飾ろう会」として、おもてなしに一役買うことになったのです。
当初は130mの予定だった線路沿いの花壇は、10両編成の「瑞風」のスケールに合わせて240mになることに。運行初年の2017年の夏は、ヒマワリの行列が車窓を彩り、乗客のみなさんの思い出のワンシーンを演出しました。一人の情熱が、産・官・学をつなぐ大きなムーブメントになった瞬間です。
大賀さんが、地元や列車に対する熱い思いを語って下さいました。「実は幼い頃、列車の運転士になりたかったんですよ。母親が長浜小学校の用務員をやっていた関係で、低学年の時に夏休みにグラウンドで遊んでいたんです。すると、目の前の線路を貨物列車が通って、機関士さんが汽笛を鳴らして手を振ってくれたんです。それはもう嬉しくて、憧れの存在になりました。山陰本線を走る列車はいつも1両か2両ですが、『瑞風』は10両編成でかっこいいじゃないですか。運転士さんや浜田鉄道部を応援したいという個人的な気持ちも働いています(笑)」
小学生たちの「瑞風歓迎プロジェクト」
「瑞風」歓迎ムードが高まる中、大賀さんは自身がPTA副会長を務める長浜小学校にも輪を広げたいと、校長の小川豊先生と教頭の大石学先生に相談します。すると、ここから話はトントン拍子に進んでいきました。「学校の目の前を走ることはJRの方からも聞いて、面白いなとは思っていたんです。本運行が近づいてきて、『瑞風』が通るのが昼休みの子どもたちが遊んでいる時間帯と重なるとわかって。これはいわば運命みたいなものですよね」(小川先生)。「子どもたちが『瑞風』に手を振ったりすることで、『長浜小学校でよかったな』と、誇りを持ってくれればいいなと」(大石先生)。こうして長浜小学校の「瑞風歓迎プロジェクト」がスタートすることになりました。
プロジェクトのリーダーに選ばれたのは、6年生担当(取材時)の上野暢彦先生。「どういう風に迎えたらいいのかな」と悩みながらも、まずは1・2年生、3・4年生、5・6年生の3グループに分け、担任の先生たちを集めて話し合ってもらいました。迎えた初回は試運転の日。「5、4、3、2、1、来たよ!」。カウントダウンを受けて、子どもたちはそれぞれに「瑞風」への歓迎の気持ちを伝え始めます。旗を振って迎える子もいれば、ウェーブでアピールする子たちも…。「うまくいったんでしょうかね?(笑)最初はどこに誰が乗るのかわからないし、お客さんも乗られていなくて。でも、ゆっくり走ってくれることや列車の中が見えることがわかったので、『次はどうすればもっと上手くできる?』と、意欲付けすることはできました」(上野先生)
こんな風に手探りで始まった「歓迎プロジェクト」でしたが、回数を重ねるごとに、子どもたちはどんどん成長していきます。ジャングルジムに登って手を振る子、横断幕を作るグループ、学校で取り組んでいる鼓笛の演奏やリングバトンの演技を披露したり、「瑞風」とかけっこで競争して楽しむ子たちもいます。最初は先生たちがリードしていましたが、今では「次は何をしよう?」と、子どもたち自分たちで集まって相談し合うようになっています。
「瑞風」がつなぐ「心の交流」
今年1月には、念願の「瑞風」クルーとの交流会も実現しました。日頃の「おもてなし」に感謝の気持ちを伝えるために制服姿も凛々しいクルーたちが登場すると、体育館に集まった長浜小の子どもたちは大感激!車内の様子をパネルで紹介したり、車内演奏家によるバイオリン演奏を楽しんでもらったほか、子どもたちからの質問タイムなど、盛りだくさんの内容でした。特に、車内から撮影した映像が流れると、子どもたちからは歓声が。「こんな風に見えているんだ!」と、自分たちの歓迎がしっかり伝わっていることを実感してくれたようです。
こうした取り組みは、一種のキャリア教育にもつながると教頭の大石先生は話します。「1年生だと『かっこいい!』という感想ですが、6年生くらいになると将来のことを意識し始めますから、職業に関する質問が出てきたりする。成長の段階によって受け止め方がさまざまなのも面白いですね」。
来校のお礼に子どもたちが歌のプレゼントを贈ると、思わず涙ぐむクルーの姿も。こうした「心の交流」を通じて、子どもたちの夢が育まれていくのでしょう。「みんな素直な子たちですので、『瑞風』が来ると本当に喜びを表情や身体全体で表すんですよ。嬉しさが込み上がってきているのがわかる。そういう素直な心に育っていくのが一番嬉しい。心豊かに、感性を磨いてほしいですね」(小川先生)。地域を愛する気持ちや子どもたちの夢をのせて「瑞風」は走っているのだと、心を新たにしました。