第16回目は、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」山陽コース上りの立ち寄り観光地である広島県の尾道についてご紹介。尾道市長の平谷祐宏さんに、今年3月10日に新駅舎となった尾道駅のことなども含めてお話を伺いました。
尾道市役所の職員がいっせいに手を振る「おもてなし」
「尾道が『瑞風』の立ち寄り観光地に選ばれたときは、心からうれしかったです。まちじゅうが喜び、活気づいたかのような印象でした。2017年6月の運行開始時には大勢の人が尾道駅に集まり、大歓声が上がったのを覚えています。今では『おもてなし』も定着してきましたが、やはり『瑞風』の来る日は特別なムードが漂いますね」(平谷市長/以下同)
海と山に囲まれたコンパクトなエリアに市街地が形成されている尾道市。尾道水道を望む山腹には寺社や古い邸宅が残り、その風情ある箱庭的な街並みや美しい景観が「日本遺産」に認定されています。
尾道駅の特長の一つが海の近さ。対岸の向島へと続く幅200~500mの尾道水道が、目の前の港から広がっています。「瑞風」の山陽コース(上り)では、尾道水道のクルージングも楽しめますが、駅からクルーザーに乗り込むまでの間だけでなく、乗船中にも「おもてなし」が行われています。
「クルーザーが、海沿いにある尾道市役所本庁の前を通るとき、職員たちがいっせいに手を振っています。庁舎にいるときは私ももちろん参加していますが、『瑞風』のお客様からも手を振り返していただけるんですよね。一瞬の交流ですが、心あたたまるひとときです。『うれしかった』とご好評をいただけているようで、とてもありがたい。瀬戸内海は潮の干満差が大きく、潮位がものすごく変わるんですよ。潮の流れがデッキから見てもよくわかると思うので、そのあたりも楽しんでいただければなと」
昨年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)と台風24号の影響により、昨年には「瑞風」の運行を休止している期間もありました。再開したのは10月。それを記念した「おもてなし」イベントもまた、感慨深かったと平谷市長は振り返ります。
「この山陽コースに乗りたいと、待たれた方もいらっしゃったと聞き、本当に申し訳なくて…『よく来てくださった』という想いがあふれ出しました。『瑞風』のお客様たちによって、暮らしている人たちは気づいていない尾道の良さも引きだしてもらっている。運行開始以降、尾道のブランド力も上がったように感じています。『瑞風』は素晴らしいパイオニアですよ」
尾道は、心のふるさとのような空気の流れる場所
穏やかな海や気候などの自然に恵まれ、さまざまな観光資源を有するせとうちエリア。JR西日本は、せとうち周辺の方々と力を合わせ、新たな魅力を生み出すことで地域活性化をめざす「せとうちパレットプロジェクト」を展開しています。その一環に位置づけられたのが、老朽化していた尾道駅の建て替えです。国内外から多くのお客様が繰り返し訪れる“周遊の新拠点”となるよう、工事が進められました。
2019年1月には、尾道市とJR西日本岡山支社が、観光振興に関する連携協定を締結。尾道をせとうちエリアの重点的な観光拠点として整備を進め、駅周辺エリアを起点とした観光振興に力を入れていくことを確認し合ったといいます。
「尾道は、心のふるさとのような空気の流れる場所です。かつて新幹線の停車駅に選ばれなかったこともあり、寂しい想いを抱いていた時期もありました。しかし速さだけを求めるのではない時流が訪れ、再び脚光を浴びるようになったのです。スローライフを象徴するかのような尾道は、ゆったりとした時間を味わう『瑞風』のめざすものとも重なり合う。JRさんとも、足並みをそろえて活性化を目指せていることに感謝しています」
尾道市といえば映画や小説の舞台に数多くなっている“坂のまち”ですが、海側は7つの橋で結ばれた「瀬戸内しまなみ海道」沿線の島々で構成されています。世界有数のサイクリングコースであり、近年では“サイクリストの聖地”として人気を集めているしまなみ海道の、本州側の出発地にあたるのが尾道です。
「『憧れだったしまなみ海道にやっと来られた』といったお声を聞くこともあるんですよね。尾道水道の風景も、このあたりの人にとっては当たり前のもの。しかし訪れる人たちのおかげで、これは大切な資源なんだと、別の見方をさせてもらえます。『瑞風』の運行もまさにそうです。大勢の方に喜ばれることで、地元の人たちがまちの良さを再認識してくれていますよ」
自分たちのまちに、より誇りをもてるようになった
そして3月10日には、尾道駅の新しい駅舎が開業。明治24(1891)年に建てられた初代駅舎の黒い瓦屋根や深い軒など、趣のあるイメージを取り入れつつ、斬新な工夫が施されています。改札から短いコンコースを進むと、すぐに正面に尾道水道の情景が飛び込んでくるように設計。訪れるお客様には“旅情”を、地域の皆様には“尾道らしさ”を感じてもらえる、せとうちエリアへの新たな玄関口となりました。
「しまなみ海道沿線の島々では、地元の有志や企業が住居や店舗などを著名な建築家に依頼し、新しい資源として発信する『しまなみアーキライン・プロジェクト』も進められていますが、尾道駅の新駅舎は、その起点にもなってくれそうです」
さらには「瑞風」のお客様にご利用いただく専用の出入口を設置。改札横のコインロッカーや券売機など、随所に「瑞風」をイメージさせる緑色があしらわれています。開業翌々日の12日には、新しい駅舎に初めて「瑞風」が到着。あたたかいお出迎えもあいまって、乗車されたお客様の笑顔もいっそう明るいものとなっていました。
「吹き抜けのコンコースには自然光が差し込み、駅を降りた瞬間から違いを体感していただけると思います。階段を上がると開放的な眺望デッキが広がり、尾道水道もホームに入る列車も眺められるんですよ」
生まれ変わった駅には、尾道ならではのメニューが味わえる飲食店や、こだわりのお土産がそろうショップ、尾道で生まれたオリジナル自転車もあるレンタサイクル店などが集まっています。加えて“駅に泊まる楽しさ”を体験できるホステルタイプの宿泊施設も誕生。サイクリストや外国人観光客、長期滞在者にもうってつけです。
「天井が高くて、夜行列車の二段ベッドをイメージした客室になっているんですよ。ラウンジからも、線路を走る列車を眺められるので、鉄道ファンにもたまらないはず。地域の魅力を発信する場、皆様の交流の場として、にぎわってくれるでしょう。『瑞風』のお客様にも、また改めて来てみたいと思っていただければうれしいですね。『瑞風』の立ち寄り観光地となり、尾道駅が生まれ変わったことで、地域の人たちは自分たちのまちに、より誇りをもてるようになったと思います」
「瑞風」のお客様との距離がさらに近くなっていく
尾道駅から趣深い商店街を通り抜け、少し歩くと現れる尾道市役所の本庁。その隣では現在、耐震性の高い新庁舎の建築が進められています。せとうちの橋などの構造物を想わせるトラス構造で、尾道らしさを演出。全体が客船のようなイメージの建物で、2019年中の完成をめざしています。
「上層階がせり出す形でカーブを描いていて、ますます海が近くなりますので、『瑞風』のお客様との交流も、さらに身近に感じていただけるはずです。屋上は展望デッキとして、市民開放スペースを新設。1階のフロアにもほとんど壁をつくらず、海が見渡せるようにし、集客スポットとしての役割ももたせる予定です。海側からの見た目も大きく変わり、クルージングもいっそう盛り上がることでしょう」
尾道の人たちは、とても気さくで親切。地図を見ている人がいると、すぐに寄ってきて「案内しましょうか?」と声をかけてくれる…そんなあたたかな交流ができる風土があると、平谷市長は語ります。
「『瑞風』でいらっしゃったお客様に味わってほしいのは、尾道の自然な空気感です。もう一度『瑞風』でも来てみたいし、今度は歩いて巡る観光やサイクリングなども体験してみたい。そう思って、再訪していただければ幸いです。そのためにも、春夏秋冬、季節ごとの旅のプランや尾道でしかできない体験メニューも、JR西日本さんともコラボレーションしながら、ブラッシュアップし続けなければなと。懐かしいけれど、いつ来ても新鮮だと感じていただけるよう、これからも地域の魅力向上に努めます」