MIZUKAZE PROJECT STORY

瑞風プロジェクトストーリー

June 2019

vol.18

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

 第18回目は、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」山陽・山陰周遊コースで最終日に立ち寄る、鳥取県・東浜駅での「おもてなし」についてご紹介。「瑞風」のお客様を歓迎しようと結成された「東浜瑞風会」の皆さんに伺ったお話とあわせてお伝えします。

「東浜瑞風会」を結成し、「おもてなし」のアイデアを思案

 「瑞風」の山陽・山陰周遊コースは、2泊3日かけて西日本の原風景を堪能できる周遊プランです。その3日目に立ち寄るのが東浜駅。鳥取県の北東部、日本海に面した岩美町にある小さな無人駅です。駅のすぐ目の前に広がるのは、世界ジオパークにも認定されている美しい浦富海岸。日本屈指の透明度を誇る青い海、真っ白な砂浜がまぶしく輝いています。

 岩美町の人たちが「瑞風」の停車を知ったのは、運行開始の約2年前。「何もない無人駅で停まることにまず驚いた」と皆さん口をそろえます。そこから地区ごとの自治会や婦人会など、各団体の代表が集まって、どんな「おもてなし」を行うかディスカッション。「瑞風」が着発する平日の朝から昼にかけて集まれるのは誰か、そのなかでできることは何かと検討を進め、地域の人たちに呼びかけて「東浜瑞風会」を立ち上げました。

「東浜瑞風会」会長の浜口丈夫さん「東浜瑞風会」会長の浜口丈夫さん

 「話し合いを通じて、過去に踊られていた『東浜音頭』を復活させる案が出てきたんです」と、会長を務める浜口丈夫さん。歌詞に東浜の美しい情景や名物などが盛り込まれたこの音頭は、今から50年前に地元の人たちによってつくられたもの。運動会や地蔵盆などで、主に子どもたちによって踊られてきました。しかし地域の少子高齢化に伴って踊る機会が減っていき、約20年前に途絶えてしまったといいます。

50年前につくられた「東浜音頭」を今によみがえらせた

「東浜瑞風会」の寺谷さくらさん「東浜瑞風会」の寺谷さくらさん

 住民の方々に呼びかけたところ、運良く「東浜音頭」の音源テープは見つかりました。しかし問題は振り付けです。資料が残っていなかったため、婦人会のリーダーも務めていたメンバーの寺谷さくらさんが、昔、踊っていた記憶を頼りにつくり直すことしました。
 「かすかに覚えてはいたものの、創作の部分が大きい。歌詞とも照らし合わせ、新しく考えていきました。みんなでそろえるのは大変でしたが、みんなが嫌な顔ひとつせずに頑張ってくれたのがありがたかったです」と寺谷さん。「みんなの踊りが合うと、どんどん楽しくなっていった」とメンバーの皆さんも話します。

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

 さらには、もう一つの演目についても検討。12月から3月までの期間は、鳥取駅に到着し東浜駅から出発する「瑞風」ですが、4月から11月までは乗降車ともに東浜駅となるため、お出迎え時とお見送り時に出し物を変えようと考えたからです。選ばれたのは、「因幡の傘踊り」。鳥取県東部に古くから伝わり、県の無形民俗文化財に指定されている民俗芸能です。

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

踊り手となるのは、二十数名のメンバーたち。衣裳はみんなで相談し、日本海をイメージしたブルーのハッピを選びました。波模様があしらわれ、背中には会の代表・小山勝之進さんの書かれた「東浜」という文字がプリントされています。ハチマキや帯、鼻緒などもブルーで統一。皆さんに喜んでほしいという一心で、東浜駅近くにある岩美町・東コミュニティセンターに集まり、およそ週に1回、1年近く練習を重ねました。

美しく生まれ変わった東浜駅で、「瑞風」のお客様たちを歓迎

「瑞風」停車時の東浜駅「瑞風」停車時の東浜駅

 一方で、東浜駅周辺の整備も進められました。改札のない無人駅ならではの開放感はそのままに、駅舎もリニューアル。デザインを担当されたのは、「瑞風」の監修もされている浦一也さんです。最も特徴的なのは、天井を鏡張りにしたゲート部分。美しい風景を映し出す、この“空に浮かんだ鏡”は、降り立つ人をあっと驚かせる新名所となっています。

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

 さらには東浜駅から100mほど西にある旧保育所を改装し、「瑞風」のお客様に、ランチを提供する「AL MARE(アルマーレ)」を新設。イタリア語で「海辺」を意味する店名どおり、雄大な日本海を一望できる環境で、地元の新鮮な素材を使った特別な料理が味わえます。
 目の前の海辺には、遊歩道や東屋を新設。浦富海岸の素晴らしい景色も、より身近に楽しめるようになりました。

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

「また来たい」というお言葉を聞くと、ものすごくうれしい

 こうして2017年6月に「瑞風」の運行がスタート。東浜での「おもてなし」は大好評を博し、瞬く間に人気の立ち寄り観光地となりました。
 「『また来たい』というお言葉を聞くと、ものすごくうれしい」とメンバーの皆さん。「笑顔で見てくださるし、拍手もしてくださるし、『ありがとう』と喜んでくださるし…こちらが元気をもらっています」と、語ってくれました。

 5月から9月までは、「AL MARE」前の砂浜で、地引き網の実演も行います。獲れた魚によっては、ランチタイムに大皿で提供されることも。このアイデアも、「東浜瑞風会」が発案したものです。実施は漁協の方々が主体となってされていますが、引き手として会の何人かがサポートに入るのだそう。

 「『瑞風』のお客様と一緒に引くこともあり、より密に会話ができるんですよ。あれこれお話をしていると、『来年もう一度、夫婦で来ますね』と言ってくださった方がいて、とても感激しました」と教えてもらいました。

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

 「後日、お礼状や写真を送ってきてくださる方も時々いらっしゃるんですよ」と浜口さん。「『到着と同時に踊りで皆様に歓迎していただき、まるで皇室の一員のような気分にさせていただきました』なんてお手紙をいただいたことも…」と満面の笑顔です。
 お別れ後、車内でつくられた折り鶴を、「瑞風」クルーを通じて頂戴したこともあったのだとか。お客様からのあたたかい反響が、「おもてなし」の原動力となっているようです。

出発時には、「瑞風」が見えなくなるまで手を振ってお見送り

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

 今回、取材に伺ったのは、春らしい天候に恵まれた4月の金曜日。「東浜瑞風会」の皆さんは、朝の8時半頃、コミュニティセンターに集合して踊りの確認をし、東浜駅前の広場へと向かいます。岩美町商工会の皆さんも毎回、駆けつけ、横断幕を持ってスタンバイ。

 午前9時頃に「瑞風」が到着すると、いっせいに大歓迎。お客様からも笑みがこぼれます。ゲートまで出てこられると、浜口さんのご挨拶を合図に「東浜音頭」がスタート。曲が終わると大きな拍手が湧き起こりました。その後は皆さんで一緒に写真を撮ったり、会話を楽しんだりして、「瑞風バス」での出発をお見送りします。

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

 東浜駅からの出発は12時45分頃。お昼も事前練習をしてから定位置につき、「AL MARE」から戻ってこられる「瑞風」のお客様を待ちます。皆さんがいらっしゃったタイミングで、今度は「傘踊り」を披露。色鮮やかな傘の模様がきれいにそろい、付けられた鈴の音がシャンシャンと美しく鳴り響きます。手拍子をしながら笑顔でご覧になるお客様たち。終わると再び記念撮影や語らいの時間に。この日も、「いい思い出になりました。帰ってからも皆さんのことを思い出しますね」といったお言葉が聞けました。

 最後は駅のホームへと集合。黄色い線を目印にして一列に並びます。青いハッピ姿が映え、とってもきれい。「瑞風」に乗り込んだお客様のなかには、窓を開けて出発まで話しかけてくださったり、お花を渡してくださったり、感謝の言葉を書いた紙を窓越しに見せてくださったりする方もいるのだそう。心あたたまる交流の一場面です。

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

 列車出発の信号が青になると、浜口さんの掛け声でいっせいに手を振り始めます。各車両の窓には、たくさんの笑顔。車両が見えなくなるまでずっと振り続けますが、最後尾の展望デッキに出られている方々も同じように返してくださり、お見送りする側もうれしくなりました。

1日も欠かすことなく、真心を込めた「おもてなし」を

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆

 「せっかく来ていただくからには、心からの歓迎の気持ちを伝えたい」という、「おもてなし」の心が実を結んだ「東浜瑞風会」。20年ぶりに復活させた「東浜音頭」は町の財産となり、地域のイベントなどでも披露されるようになりました。そんな功績が認められ、同会は「日本海新聞ふるさと大賞2017」の「地域貢献賞」も受賞しています。

「『瑞風』が停まるなんてすごいねって、ほかの地域の方からも言われるんですよ」と代表の小山さん。「瑞風」運行をきっかけに、東浜へ来られる方も増え、盛り上がりを感じるといいます。

「東浜瑞風会」代表の小山勝之進さん「東浜瑞風会」代表の小山勝之進さん

 「『瑞風』でいらっしゃったお客様が、とても褒めてくださるんですよね。以前は何もなくて寂しい田舎だったと思っていたんですが、考えてみれば、静かで空気もきれいで景色もいい。良いところだったんだなと、自信がもてるようになりました。漁村の風景や海岸の岩石美など、岩美町にはまだまだ見どころがたくさんある。『瑞風』をきかっけに、再び足を運んでくださるとうれしいですね」

 雨の日も雪の日も、1日も欠かしたことがない、東浜駅での「おもてなし」。今後も訪れた人たちを精いっぱい喜ばせたいと、浜口さんは締めくくります。
 「毎回必ず、真心を込めてもてなすようにしています。『瑞風』のおかげで地域の絆も深まりました。東浜へいらっしゃった皆さんに、『来て良かった』『また行ってみたい』と思っていただけるよう、これからも続けていきたいです」

20年ぶりに復活させた音頭で深まった、東浜の絆