MIZUKAZE PROJECT STORY

瑞風プロジェクトストーリー

December 2024

vol.19

美しい日本の風景を、いつでも美しい「瑞風」で

美しい日本の風景を、いつでも美しい「瑞風」で

 第19回目は、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」を美しく保つ取り組みについてリポート。「瑞風」の清掃を担当するJR西日本メンテックグループの3拠点にお邪魔して、その姿勢や想いを伺ってきました。

車両の清掃スタッフは、表には出てこない縁の下の力持ち

 JR西日本の駅や車両などを、きれいな状態に保ち続けるために清掃業務を行っているのがJR西日本メンテックグループです。そのなかで「瑞風」に関わっているのは、JR西日本メンテック、JR西日本広島メンテック、JR西日本米子メンテックの3社。「瑞風」の発着地である大阪駅と下関駅、そして立ち寄り観光地である宍道駅の付近に拠点を置く、宮原営業所と下関営業所、出雲事業所のスタッフが、車両の清掃に携わっています。

美しい日本の風景を、いつでも美しい「瑞風」で

 メンテックのスタッフが清掃業務に励む姿を、駅構内で見かけたことのある方は多いでしょう。「瑞風」の停車駅では、彼らが手を振ってお出迎えやお見送りをすることもあります。しかし車両全体を清掃するメンバーが活躍する舞台は、駅ではなく車両所。直接お客様の目にふれることはない、まさに縁の下の力持ちです。

洗浄装置を通さず、すべてを手洗いするのは「瑞風」だけ

 日々、多くの車両を清掃するなかで、その運行日時に合わせて行われるのが「瑞風」の清掃です。東の発着駅となっているのは大阪駅、新大阪駅と京都駅。いずれに到着しても、「瑞風」は新大阪駅の西側にある車両所へとリフレッシュに向かいます。

美しい日本の風景を、いつでも美しい「瑞風」で

 清掃のタイミングは、出発の前日。取材に伺った日は、事前に運行がなかったためお昼過ぎから始まりましたが、多くは夜にやって来て翌朝に送りだすタイトなスケジュールです。しかも「瑞風」はJR西日本の列車で唯一、洗浄装置を通さずすべて手洗いされている特別仕様。エンブレムなどの凝った意匠が施され、塗装も一般車両とは違う特殊なものだからです。この日は16人体制でしたが、ほかの列車の清掃が1時間もかからないなか、「瑞風」は完了までに5~6時間はかかるといいます。

 外装内装とも、かつてないほど精巧で繊細な造り。高い位置にも窓があるなど、メンテックグループにとっても初めて直面することばかりでした。今でこそノウハウが確立しているものの、当初は最適な清掃道具を探すところからスタートし、試行錯誤を繰り返したといいます。

美しい日本の風景を、いつでも美しい「瑞風」で

心地よく過ごしていただけるようチームでフォロー

JR西日本メンテック 車両事業部 宮原営業所 係長 濱田裕史さんJR西日本メンテック 車両事業部
宮原営業所 係長 濱田裕史さん

 2017年6月の運行開始に先立ち、以前に活躍していた豪華寝台特急「トワイライトエクスプレス」の清掃経験者たちが中心となり、準備を進めていきました。その一人、JR西日本メンテック 車両事業部 宮原営業所の濱田裕史さんは語ります。
 「『トワイライトエクスプレス』は豪華列車でしたが、『瑞風』は『美しい日本をホテルが走る』をコンセプトとしています。まずは4人のメンバーが『ホテルグランヴィア京都』へ研修に行き、ベッドメイキングや水回りの清掃法などを学んできました。ただ、ホテルとは広さや構造も違うので、参考にしつつもより良い方法を模索。今も改良を重ねています。今日も『瑞風』がきれいだった、なんて感想をSNSなどで目にするとうれしいですね」

JR西日本メンテック 車両事業部 宮原営業所 係長 平田悦子さんJR西日本メンテック 車両事業部
宮原営業所 係長 平田悦子さん

 同じくホテルでの研修に参加された平田悦子さんも、「通常の列車は滞在時間が短いですが、『瑞風』はそれぞれのお客様が同じ場所にずっといらっしゃいますからね。長くいる間に汚れが目につくと、ずっと気になってしまうでしょう。そうならないよう、見えないところの隅々までも丁寧に仕上げています」と話します。

JR西日本メンテック 車両事業部 宮原営業所 係長 山﨑功さんJR西日本メンテック 車両事業部
宮原営業所 係長 山﨑功さん

 途中からメンバーに加わったという山﨑功さんは、「携わるスタッフ全員の目が厳しく、チームでフォローし合えるのも強みです。最初は大変でしたが、やっていくうちにわずかな汚れも発見できるようになりました。どうすればお客様に心地よく利用してもらえるか、常にイメージしながら作業にあたっています」と教えてくれました。

お客様から褒めてもらえるのも、みんなの協力があってこそ

「瑞風」テクニカルサービスクルー 土井貴文さん「瑞風」テクニカルサービスクルー
土井貴文さん

 「瑞風」の清掃は、JR西日本の担当者らと打ち合わせをしてから取りかかります。事務所だけでなく、現場でも打ち合わせをするのは「瑞風」だけ。取材時に来ていたテクニカルサービスクルーの土井貴文さんは、「いつもきれいだね、とお客様にも褒めてもらえるのも、メンテックグループの協力があってこそです」と微笑みます。

 ときには清掃後に雨が降ってしまうことも。その場合、当直のスタッフたちが早朝から汚れた部分を再度、洗い直します。時間のないなか半分以下の人数で行うため大変ですが、「少しでも美しい状態で届けたい」という想いから、妥協は許しません。

JR西日本メンテック 車両事業部 円口遼一さんJR西日本メンテック 車両事業部
円口遼一さん

 JR西日本メンテック本社の「瑞風」担当、円口(えんぐち)遼一さんはこう言います。
 「『瑞風』の清掃には、誰もが関われるわけではありません。一定の水準を満たした技術者たちが経験を活かしてくれていますし、細やかな女性の目に助けられている部分も大きいです。皆さんの働きぶりは、身内ながらに『ありがとうございます!』というレベルですよ(笑)。少しの汚れも残さない形で仕上げてくれ、お客様から高い評価をいただいています」

美しい日本の風景を、いつでも美しい「瑞風」で

限られた時間のなか、お客様目線で快適な旅の実現を

 一方、「瑞風」の西の発着地となっているのが下関駅です。その近くにある車両所には、出発前日の夕方に到着。限られた時間のなかで、素早く丁寧に清掃する技術が求められます。ここで携わるスタッフたちは運行開始前に大阪へ行き、宮原営業所のメンバーらから研修を受けたといいます。

JR西日本広島メンテック 下関営業所 大和町作業所 チーフ 内山裕二さんJR西日本広島メンテック
下関営業所 大和町作業所
チーフ 内山裕二さん

 JR西日本広島メンテック 下関営業所 大和町作業所 チーフの内山裕二さんは、こう話してくれました。
 「研修を受けた私たちが担当社員に周知し、マニュアルをブラッシュアップさせていきました。意識しているのは、お客様目線で考えること。髪の毛一本まで見落とさないよう徹底しています。きれいに仕上がると清々しい気持ちになれますよ。多くの人たちから愛されている『瑞風』を支えられるのは光栄なこと。ご乗車になったお客様に、この車両で良かったと思ってもらえるよう、真心を込めて清掃にあたっています」。

JR西日本広島メンテック 下関営業所 大和町作業所 整備係 大賀美舟さんJR西日本広島メンテック
下関営業所 大和町作業所
整備係 大賀美舟さん

 整備係の大賀美舟さんが続けます。
 「置かれている家具や調度品も高価なものばかり。少しの傷もつけないよう慎重に取り扱っています。下関には『瑞風』が留置されることもなく、人員も少ないので、常に時間との戦い。そのなかでもミスを起こさないよう心がけています。一人ひとり目線が違うので、スタッフ全員で確認し合うことで気づける部分もある。そうやって見逃す部分がないよう気を配っています。やっぱりお客様全員に、快適な旅を楽しんでいただきたいですからね」。

自分たちにできる「おもてなし」はないかと考えて提案

美しい日本の風景を、いつでも美しい「瑞風」で

 2泊3日の山陽・山陰周遊コースで2日目に立ち寄るのが島根県の松江市。宍道駅に到着し松江駅から出発しますが、その間に「瑞風」を整備するのが出雲市にある車両所です。ただ、もともとは給油や給排水、シーツ類の積み下ろしをするためだけの場所として設定されていたのだとか。JR西日本米子メンテック 出雲事業所 副所長の黒田剛さんは語ります。

JR西日本米子メンテック 出雲事業所 副所長 黒田剛さんJR西日本米子メンテック 出雲事業所
副所長 黒田剛さん

 「せっかく『瑞風』が来てくれるんだから、何かしら私たちにできる『おもてなし』がないものかと考えたんですよ。長いコースを走行していると、巻き上げた泥や砂ぼこり、季節によっては虫の影響で、ガラス面や前面が汚れやすくなります。旅の醍醐味である山陰の景色をご覧いただくのに、窓や展望デッキが汚れていたら台なしでしょう。時間がなく全体を洗うのは難しいけれど、そのあたりだけでもきれいにできればと提案させてもらいました」

美しい日本の風景を、いつでも美しい「瑞風」で

 出発前の点検時間を考えると、作業に使えるのは2時間程度。作業中も「瑞風」のクルーたちが客室の整備を行うため、エンジンはかけておかなければなりません。そのため夏場の床下は、目まいがするほど暑いのだそうです。それでも愛情を込めて接していると黒田さん。
 「あまりの豪華さに、最初のうちは畏れ多い感覚でしたが、長く関わっているうちに愛着がわいてきました。きれいになった車両を見送るときは、なんとも言えない達成感を覚えます。担当者は皆、『瑞風』マークの入ったタグをつけて作業に臨んでいます。特別な列車の仕事を担っているという意識は、全員が持っています」。
 これだけ頑張ってきれいにしているのに、直接お言葉をもらえないのは寂しいのでは…そんな疑問を投げかけたところ、「自分たちはあくまでも裏方。むしろ、きれいなのがあたりまえだと思っていただいたほうがいい」と即答。「私たちは私たちにできることを誠実に、確実に実行していくだけ。それが結果として、お客様に『感動』を与え、山陰のファンになっていただければうれしいですね」と微笑んでくれました。

美しい日本の風景を、いつでも美しい「瑞風」で

※インタビューさせていただいた方の役職等は取材時のものになります

※掲載されている情報は、公開時のものになります