MIZUKAZE PROJECT STORY

瑞風プロジェクトストーリー

December 2024

vol.27

「瑞風」の感動を思い出させてくれるおいしい日本酒に

「瑞風」の感動を思い出させてくれるおいしい日本酒に

 第27回目は、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」のお客様に向けて特別に仕立てた「瑞風オリジナル」商品の開発ストーリーをご紹介。新たに仲間入りした、京都の「佐々木酒造」による「聚楽第(じゅらくだい)純米大吟醸エクセレント」について、四代目社長の佐々木晃さんにお話を伺いました。

秀吉も愛した名水での酒造りを洛中で伝承

佐々木酒造佐々木酒造

 明治26年(1893年)に創業した「佐々木酒造」は、京都市の中心部に残る酒蔵です。位置するのは二条城の北側あたり。かつて豊臣秀吉が政庁兼邸宅として築いた「聚楽第」の南端にあたる場所だといいます。
 「秀吉がこの地を選んだ理由の一つは、良質の水が出たことです。茶道が趣味だった秀吉は、敷地のなかに千利休の茶室付きの家を建て、一緒にお茶を楽しんだという話も残っています。私たちが酒造りの仕込み水として使っているのは、蔵の地下からくみ上げる名水『銀明水』。洛中の水の良さに変わりはなく、お茶の家元はもちろん、豆腐や湯葉、生麩の製造など、“水が命”の産業がいまも残っています」(佐々木晃さん/以下同)
 京都の造り酒屋といえば京都市の南部、伏見を連想される方が多いでしょう。現在も、神戸市の灘に次ぐ全国第二位の生産量を誇る酒どころとして知られています。しかしかつての酒造りは洛中、つまり旧京都市内の中心部のほうが、より盛んだったそうです。

佐々木酒造 四代目社長の佐々木晃さん佐々木酒造 四代目社長の
佐々木晃さん

 「室町時代の洛中は、300軒以上もの蔵元が集まる日本最大の産地でした。うちが創業した明治26年の時点でも131軒あり、まだ伏見より数も生産量も多かったんです。現在、酒どころと言われるのは、兵庫や新潟など米どころでもある地域がほとんど。いくら水が良いとはいえ、米が収穫されない京都の街なかになぜ造り酒屋が多かったかというと、都があったため全国から大量の年貢米が集まってきたからです。いい酒を造るので評判が上がり、土地が広く河川港もあった伏見へ移る蔵元が増えていき、そのいくつかが大規模化。洛中に残った小さな蔵元は減り続け、中心部はうちだけに。この洛中での酒造りの伝統を、ひたむきに継承していこうと努めています」

全国の酒蔵がめざす清酒鑑評会で金賞を獲得

「瑞風」の感動を思い出させてくれるおいしい日本酒に

 国内における日本酒全体の出荷量は減りつつあるものの、吟醸酒や純米酒など、特定の品質基準を満たした「特定名称酒」の占める割合は増加傾向に。消費者の志向が量から質へと変化しているからこそ、より高い技術力が必要となってきています。「佐々木酒造」の代表銘柄「聚楽第」は、全国規模で開催される唯一の清酒鑑評会である「全国新酒鑑評会」で、直近で授賞のあった令和元年度を含め、何度も金賞を獲得。その技術力の高さを証明しています。

「瑞風」の感動を思い出させてくれるおいしい日本酒に

 「ビールの場合、大手4社で99%以上のシェアを占めている状態ですが、日本酒のシェアは大手10社で50%ほど。残り半分は全国1,200社ほどの中小の蔵元によるものです。質の高い日本酒は、量産が難しいんですよ。『酒を造る』とは言いますが、実際、米を酒に変えているのは麹や酵母といった微生物ですからね。それらの生育環境を、しっかりコントロールしてやることが我々の仕事。小さな蔵元の存在意義は、細やかで丁寧な仕事にこそあると考えています」

代表銘柄「聚楽第」で京都らしいおもてなしを

 「佐々木酒造」と「瑞風」との関わりは、2017年の運行開始時から続いています。京都駅からご乗車されるお客様に、旅立ちまでのひとときをお過ごしいただく「瑞風ラウンジ京都」で、「聚楽第 大吟醸エクストラプレミアム」を提供してきました。

「瑞風ラウンジ京都」で提供されていた「聚楽第 大吟醸エクストラプレミアム」「瑞風ラウンジ京都」で
提供されていた
「聚楽第 大吟醸
エクストラプレミアム」

 「“京都らしいおもてなしを”とお声がけいただき、とても光栄に感じました。同じ銘柄でもよりハイグレードなものをお届けしようと、『大吟醸エクストラプレミアム』をセレクト。酒米の王様と言われる最高級のお米、山田錦を精米歩合40%まで磨き上げ、最も華やかな香りが出るとされる協会18号酵母と銀明水で仕込んだ自信作です」
 フルーティーな香りと透明感のある味わいが特徴の「聚楽第 大吟醸エクストラプレミアム」は、お客様からも大好評を博し、ご乗車限定の商品を造ることが決まりました。
 「うれしかったですね。京都以外からご乗車になる『瑞風』のお客様にも楽しんでいただけることになりますし。オリジナルのパッケージをつくるのはもちろん、せっかくなら中身も最高のものにしようと、さらにワンランク上の商品開発を始めました」
※「瑞風ラウンジ京都」は当面の間ご利用を停止します。

最高級の純米大吟醸酒を「瑞風オリジナル」の逸品に

「瑞風」の感動を思い出させてくれるおいしい日本酒に

 めざしたのは、「聚楽第」最高級の純米大吟醸酒です。お米に少しの傷もつかないよう、トン単位で洗える一般的な洗米機ではなく、気泡で洗う特別な機械を使ってわずか10kgずつ洗米。吸水率をコンマ単位で合わせるため、浸水の時間も秒単位で管理します。そして水を切り、1時間半ほどかけて蒸したあとは、麹にする分と仕込む分に分類。前者はごく少量ずつに種麹をふりかけて良質の麹をつくり、後者は1カ月以上かけて低温でじっくり発酵させ、芳醇な香りを閉じ込めていきます。

「袋吊り」により醪(もろみ)を酒と酒粕に分けていく「袋吊り」により
醪(もろみ)を
酒と酒粕に分けていく

 「熟成させた醪(もろみ)を酒と酒粕に分けるのにも圧搾機は使わず、すべて手作業です。醪を布袋に詰めた状態で吊るし、ポタポタと時間をかけて滴ってきた酒だけを集める『袋吊り』という手法で行います。圧力をかけないため雑味が出ませんが、その分、手間がかかり収量はごくわずかです。それらを静置して滓(おり)を沈殿させ、その上澄みをとる『滓引き』の作業も繰り返し行い、洗練された部分のみを抽出するので、さらに量は半減します。通常なら1,000リットルのタンクで仕込むところ、100リットル単位で手がけて仕上がるのは30リットルほど。期間も通常の倍以上かかり、全工程に2カ月ほど要します」

「瑞風」をイメージした緑と金の意匠で特別感を

「瑞風」の感動を思い出させてくれるおいしい日本酒に

 こうして完成したのが「瑞風オリジナル」の「聚楽第 純米大吟醸エクセレント」です。注いだだけでも果実を思わせるふくよかな香りが広がります。飲めばまろやかで角がなく、きめ細やかな味わい。自然と笑みがこぼれます。すっきりと飲みやすく、おいしい食事と一緒に味わいたくなる逸品です。それでいて純米酒ならではの幅のある旨味も楽しめます。もちろん意匠にも、とことんこだわったとのこと。
 「『瑞風』を表す緑と金で構成しました。ラベルに描いた流線は、シンボリックな展望デッキをイメージ。頭冠の掛布は、京都の西陣織を使用したんですが、その店のご主人が鉄道ファンで、『瑞風』のこともすごくお好きだったんですよ。だから『使ってもらえてうれしい』と大喜びしてくださって。数多くのご提案のなかから、悩みに悩んで厳選しました。木箱は『瑞風』の沿線である山口県の業者さんにオーダー。文字の大きさや配置など細部にまでこだわり、特別感のあるものに仕上げました」

「瑞風」の感動を思い出させてくれるおいしい日本酒に
「瑞風」の感動を思い出させてくれるおいしい日本酒に

進化を続ける旨い日本酒をおいしい料理と楽しんで

「瑞風」の感動を思い出させてくれるおいしい日本酒に

 長い歴史と伝統をもつ日本酒には、ずっと変わらないイメージがあるかもしれません。しかし技術革新は進み続け、同じ銘柄でも年々おいしくなってきているといいます。
 「機器はもちろん原料米も良くなっていますし、新たな酵母も開発されるなど、日本酒はどんどん進化しています。最初に出会ったお酒との相性が良くないと、その後に敬遠されるケースも多いようなのでもったいない。苦手だと思い込まれている方にも、もう一度新しい出会いをお届けしたいですね」
 自身も観光が好きで、「瑞風」が走る山陽線沿いの瀬戸内海に夕陽が沈む光景には心を奪われたと語る佐々木さん。
 「とても美しく感動的でした。あの瞬間に日本酒を飲みたいなぁと(笑)。我々はあれこれ考えながらおいしいものを造っていますが、飲む人にとっては、誰とどこでどんな風に飲むかといった雰囲気のほうが大切。あまり難しいことは考えず、気軽に楽しんでいただけたらと思います。『瑞風』で過ごされた非日常を思い出しながら、おいしい料理と一緒に味わっていただけたらうれしいですね」

「瑞風」の感動を思い出させてくれるおいしい日本酒に

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