MIZUKAZE PROJECT STORY

瑞風プロジェクトストーリー

March 2024

vol.9

1300年の温泉街に新しい風が吹いた日

1300年の温泉街に新しい風が吹いた日

 第9回目は、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の山陰コース下りひとつめの立ち寄り観光地である「城崎温泉駅」の取り組みをレポート。観光コースの選定から、現在も行われている歓迎・見送りまで地域を挙げたおもてなしの姿勢をお伝えします。

 平安時代から温泉地として知られ、近代には志賀直哉や島崎藤村、有島武郎など多くの文豪がその魅力を謳った城崎温泉。「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の運行が決定し、この地が立ち寄り観光地となると地域の方々と鉄道社員は、共に手を携えあってこの街の魅力を瑞風の乗客の皆さんに伝えるべく、活動を展開してきました。

 こうした取り組みの様子について、「城崎このさき100年会議」理事長の高宮浩之さん、そして前理事長で、城崎温泉旅館協同組合理事長の芹澤正志さん。JR西日本城崎温泉駅 駅長(当時:JR西日本福知山支社 北近畿誘致推進室室長)の荒木正彦さん、JR西日本福知山支社 地域連携推進室 室長の白石和範さんにお話を伺いました。

瑞風だからこそ体験できるスペシャルなおもてなしを!

「城崎このさき100年会議」 高宮浩之 理事長「城崎このさき100年会議」
高宮浩之 理事長

 城崎温泉での瑞風を迎えるための取り組みの様子を高宮さんはこう語ります。
 「最初は私たちも『なんだかすごい列車が走るらしい』という漠然とした印象しか持っていなかったんですが、JRさんから詳しいお話を聞いて、これは城崎の魅力を乗客の皆さんに知っていただける機会だと奮起しました。
 やがてJRの若い社員さんや城崎の観光協会が顔を合わせてアイデアを出す会議の場が設けられて、数ある案の中から三木屋当主が志賀直哉の娘に送ったと言われる伝統工芸品『麦わら細工』の製作体験や、皇室の方も宿泊された旅館『ゆとうや』の『詠帰亭』見学といった企画が絞り込まれていきました。
 特に、普段は非公開の『詠帰亭』や志賀直哉が逗留した三木屋を専門ガイドや当主と共に巡っていただくのは、通常の観光でなかなかできない渾身のプログラムです。」

「城崎このさき100年会議」 芹澤正志 前理事長(現在:城崎温泉旅館協同組合理事長)「城崎このさき100年会議」
芹澤正志 前理事長
(現在:城崎温泉旅館協同組合理事長)

 こうした取り組みの中で生まれたのは、観光のためのプログラムやもてなしの工夫だけではありませんでした。芹澤さんは、このプロジェクトが開始されたことで起こった変化について「これまではJRさんと私たち城崎が一緒に企画を立てていく機会は少なかったのですが、瑞風の運行をきっかけにお互いの距離がぐっと近づいたように感じています。新しい地域と企業の絆ができました。」と、感慨深そうに語ってくださいました。

JR西日本 城崎温泉駅 荒木正彦 駅長(当時:JR西日本 福知山支社 北近畿誘致推進室 室長)JR西日本 城崎温泉駅
荒木正彦 駅長
(当時:JR西日本 福知山支社 北近畿誘致推進室 室長)

 JRと地域が手を取りあった経緯を説明してくださったのは荒木さん。「私は以前、機会があって志賀直哉が逗留した宿である三木屋さんのお話を伺ったことがあるのですが、これがとても楽しかったんです。そこで瑞風に乗る皆さんにもこの地域ならではの体験をしてほしいと考えたんです。ただ、やはり地域の魅力を最も深く知るのは地域の皆さんですので、その力をお借りしようと考え、まず豊岡市役所に相談を持ちかけました。その時『城崎このさき100年会議』の高宮さんもいらして、そこから瑞風のおもてなしをどうしていくかという話し合いが始まったんですよ。」

JR西日本 福知山支社 地域連携推進室 白石和範 室長JR西日本 福知山支社
地域連携推進室
白石和範 室長

 この話を受けて「JR側だけで考えるアイデアには、やはり限界がありましたから」と続けたのは白石さん。
 「城崎温泉とJRが一緒になって、瑞風のお客様をはじめ、城崎温泉にいらっしゃるお客様にどんなおもてなしができるかを、当時芹澤さんが理事長をされていた『城崎このさき100年会議』とJRの有志で考えはじめました。定期的に打ち合わせをしていく中でさまざまな意見が出ましたが、まずは『城崎温泉駅の列車到着時の駅メロを太鼓や三味線、湯桶や温泉の湧き出る水音を使った城崎らしいものにしよう』といったアイデアを実現していきました。併せて、瑞風のお客様をどのようにお出迎えするかを考え、瑞風到着時の横断幕を使ったお出迎えや、運行日における城崎温泉街中の店舗や各施設でのお出迎えペナントの掲出などの準備も進めていきました。」

地域が一丸となって駅と街をリニューアル

地域が一丸となって駅と街をリニューアル

 こうして瑞風運行に伴い、城崎の街では立ち寄り観光のプログラムだけでなく、城崎温泉の玄関口である駅の全面リニューアルに始まり、駅周辺の整備や列車の到着を告げる駅メロの変更など、乗客をお迎えするための環境づくりも着々と進行していきました。その景観作りにかけられた期間はなんと3年!
 さらにJRでも地域の人々に瑞風のことをより親しく感じていただけるようにとポスター制作などのPR活動を次々と展開していったのです。
こうした長い時間をかけて行われた取り組みは、徐々にではあるものの着実に城崎温泉の人々の中に浸透。瑞風に対して「早くこないかな」といった言葉が口の端々に登るようになりました。

城崎温泉駅始まって以来の熱気、人口の2割が駅に集合!?

 そうして迎えた瑞風運行当日。
 城崎温泉駅には、噂の新車両を出迎えようと多くの人が集まりました。
「数えてみたら、なんと700人以上が駅に集まっていたんです。城崎温泉の人口は3,500人余りです。人口の2割が集合したんですよ、信じられますか?」と 今なお驚きを隠せない様子で話す高宮さん。

城崎温泉駅始まって以来の熱気、人口の2割が駅に集合!?

 「当日は城崎温泉駅以外にも、香住駅や浜坂駅といった通過駅のホームでも瑞風を見送るパフォーマンスが行われていたんです。これほど多くの方が瑞風の到来を心待ちにしてくださったことを嬉しく感じました。」と荒木さんも感動した様子で続けます。

城崎温泉駅始まって以来の熱気、人口の2割が駅に集合!?

 やがて瑞風が到着すると、人々は旗を手に笑顔でホームに降り立った乗客の皆さんを迎えました。駅の中では、地元こども園の皆さんや地元の方々が手を振り、駅のホームに入りきらなかった人々は、駅周辺で瑞風を歓迎。駅周辺の警備には、JR社員に加え、警察の方々からもご協力いただけました。
 さらに、結成21年を迎える地元の「湯けむり太鼓」の面々が、駅前で勇壮な太鼓の音を奏でます。こうして城崎温泉始まって以来の熱気と声援を受けながら、乗客の皆さんはにこやかに城崎温泉の街へと観光に出かけて行きました。

城崎温泉駅始まって以来の熱気、人口の2割が駅に集合!?

今日は「瑞風」が来る日だ!

今日は「瑞風」が来る日だ!

 運行開始から1年が経った現在、瑞風の到着は城崎温泉の人々にとっても楽しみなイベントのひとつとなりました。
 現在も旅館組合の方々や商店街の店主、地域の子どもたちなどが、「今日は瑞風が来るから迎えに行こう!」と連れ立って駅に集まってはお出迎え&お見送りをしています。そのほかにも、地域の人々による金管バンドによる演奏なども定期的に行われ、すっかり「瑞風のへおもてなし」は城崎温泉に定着しました。
 さらにその機運は留まることなく、9月の「但州湯島の盆」の時期には、ホームに浴衣姿の人々が集い三味線に合わせて盆踊りを披露するなど、新しいおもてなしの取り組みも次々と生まれてきているのです。

今日は「瑞風」が来る日だ!

 「駅に降り立った時は、はじめての立ち寄り観光地ということもあって少し緊張している乗客の皆さんが、出迎えを受け街中を巡って再び駅に帰ってきた時にはすっかり柔らかな表情になっているんです。『次は泊まりで来ます』というお客様のお声が聞けると、私たちも力が出ますよ。これからも城崎温泉の街を楽しんでいただけるように、地域がひとつになって新しいプログラムやおもてなしの工夫を作っていきたいですね。」と芹澤さんは、さらなる意気込みを語ります。
 歴史と伝統ある温泉街に、まさしく新たな風を吹き込んだ瑞風。
 一体となったJRと地域の人々が生み出す新しいおもてなしがどのように発展していくのか、これからさらに期待が高まります!

横断幕に書かれているのは但馬弁のお迎えの言葉横断幕に書かれているのは但馬弁のお迎えの言葉
地域と鉄道会社が一体となった取り組みはこれからも続いて行きます地域と鉄道会社が一体となった取り組みは
これからも続いて行きます

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