「瑞風」の美を訪ねて

DISCOVER THE BEAUTY OF MIZUKAZE

四季折々の美しい風景、 沿線の歴史・文化を象徴する
工芸や文化財、地元の恵みを生かした美食...。
西日本を巡り、人との出会いを通じて、
「瑞風」の旅を輝かせる “美” を発見します。

服をかけ、福をかける〜熟練の技で、最高のハンガーを〜

ISSUE 11

豊岡

豊岡

服をかけ、福をかける
~熟練の技で、最高のハンガーを~

洋装ブームが起きた戦後、先見の明でハンガー作りを始めた
創業者の志を今に受け継ぐ中田工芸3代目社長の中田修平さん。
木製ハンガーを国内で製造するオンリーワンのメーカーとして
「瑞風」車内で使われているハンガー制作の秘話や
知られざる魅力を語ります。

業務用ハンガーの
トップメーカーとして

中田工芸の商いの原点は、3代目である中田修平社長の曽祖父・要太郎氏が大正6年(1917)に開いた荒物屋。その長男で、戦地から戻って後を継いだ敏雄氏は腕の良いハンガー職人と出会います。戦後に起きた洋装ブームやミシンの普及などにより、洋服文化が根付き出したタイミングでもあったため、ハンガーを作って販売を始めました。

「神戸や大阪のテーラーからの引き合いがあったようです。祖父があちこちに行商するなかで、百貨店を紹介してくれる仕立屋さんにも巡り合い、商売が軌道に乗ったと聞いています」。以降、ハンガー一筋で行くことを決意。ハンガー作りを始めた10年後の昭和31年(1956)に中田工芸は法人化されました。

その後、関西でもアパレルメーカーが次々と興る中、業務用と呼ばれるディスプレイ用ハンガーのメーカーとして頭角を現します。「昭和30年代後半からは木工技術に磨きをかけました。その頃を舞台にしたテレビドラマを見ていただくとわかるのですが、当時のハンガーは薄くて平ら。木材をただ切り出したような形が主流でしたが、祖父は人間の肩のように湾曲した、丸みのある厚型のハンガーを考案したのです。やがて東京の業者とも取引が始まりました」。

01 薄い木の板を肩のカタチに切り出した平らなハンガーが昭和30年代は一般的だった。
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02 3代目の中田社長。
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03 得意先やブランドによって異なる木型が今も大量に保存されている。
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  • 01薄い木の板を肩のカタチに切り出した平らなハンガーが昭和30年代は一般的だった。
  • 023代目の中田社長。
  • 03得意先やブランドによって異なる木型が今も大量に保存されている。

当時のアパレルメーカーのニーズは非常にレベルが高いものだったそう。ハンガーの形状はもちろん、色や手ざわり、ブランドロゴの入れ方など、さまざまな求めに応えるハンガーを制作していきました。その頃の顧客対応や技術に注力する姿勢が、今日の中田工芸の礎になっています。

「当時は一般家庭への販売は考えてもいませんでしたが、東京に行き来する列車の中で祖父はいつも『ここから見える家のすべてで、1本でも良いからうちのハンガーを使ってもらえるようになったら』と呟いていました」。口ぐせはもう一つ。『ハンガーは服かけだが、それは“福”かけにも通じる』とも良く言っていました」。その思いは、後に中田社長が個人向けのハンガーを発売したことで実を結びます。

38歳の若さで
3代目社長に就任

昭和50年代にDCブランドブームが起こると、国内に新しく誕生したアパレルメーカーからオリジナルのハンガーの注文が次々と押し寄せます。「会社は急成長。従業員も120人を超え、工場も新設しました。祖父は黄綬褒章を叙勲。イギリス王室のエリザベス女王が来日された際、当社のハンガーが迎賓館に納入されたことも重なり、ようやくハンガーが製品として世の中に認められたと祖父は喜んだそうです」。

04 今も数多くのアパレルメーカー専用のハンガーを作り続けている。
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  • 04今も数多くのアパレルメーカー専用のハンガーを作り続けている。

「平成4年(1992)に父が2代目社長に就任。私は高校まで地元で過ごしましたが、大学は千葉県に。アメリカにも留学し、そのまま就職。マンハッタンでサラリーマン生活を送りつつも、一生アメリカで過ごすつもりはありませんでしたし、家業のことも気にはなっていました。しかし、NYと豊岡の暮らしの違いを思うとなかなか踏ん切りがつかない状態でした」。

その頃、2代目が東京にも拠点をつくりたいと考え始めます。「青山一丁目にショールームを開こうという話になったのです。語学力を磨き、さまざまなネットワークを広げてきた私にとって、それはまさに自分がすべき仕事だと思い、5年のアメリカ生活に区切りをつけて帰国。私自身まだハンガーの知識がない、ゼロの状態からショールーム立ち上げにかかわりました」。 オンラインショップはすでに稼働させていたものの、個人向けの小売経験はないに等しい状態。「南青山一丁目に中田工芸の看板を出しても関心を持ってもらうのは難しい。ブランド名をNAKATA HANGERとして、ロゴマークのデザインなども自分たちで考え、2007年に長年の夢だった“B to C”に乗り出しました」。

それから10年。家庭用や贈り物、引き出物、卒業記念品など、ハンガーを贈る文化を確立できたのを機に、3代目社長に就任。37歳の若さでしたが、「父が社長になったのも同じ年頃でしたし、周りの薦めもありましたから迷いはありませんでした」。

主役になってはいけないが、
美しく

業務用ハンガーは「10円でも20円でも安くできるようにせめぎ合う世界ですが、NAKATA HANGERでは、1本数万円のハンガーもつくっています。当初は『そんなハンガーが売れるわけがない』と、社内にも冷ややかな反応がありましたが、私たちが培ってきた哲学や技術を受けとめてくれるお客様は少なくありませんでした」。

もちろん、そこに至るまでは簡単な道のりではありません。パッケージにこだわったり、個人向けならではの厳しい製品チェックも徹底。「卒業記念品なら校章を。引き出物なら、お客様の名前を刻印するといったニーズにも応えています」。

「『瑞風』のキャッチコピーは「美しい日本をホテルが走る」というものです。これまでにホテルのスイートルーム専用のハンガー制作を手がけたこともありましたから、『瑞風』の車内で使うハンガーをご依頼いただいた時は、私たちが頑張って来たB to Cの取り組みが認められた思いがして、驚くとともに大変な喜びを覚えました」。同時に、車内のクローゼットで使う仕様についての検討を開始します。

服をかけ、福をかける ~熟練の技で、最高のハンガーを~
服をかけ、福をかける ~熟練の技で、最高のハンガーを~

ハンガーに向いている材木はブナ。「ヤニが少ない点に加え、硬すぎず柔らかすぎない。品のいい木目があるなどが主な理由です。針葉樹が多い日本では安定的な入手が難しいので、計画植林されているドイツやクロアチアから輸入しています」。一枚板から職人が手の感覚だけを頼りに削り出す、贅沢な一本物ハンガーは、襟元を上品に演出する溝(トレンチ)が特徴。これをコートやジャケットなど、厚手の洋服用として納めることになりました。さらに、シャツや薄手のジャケット、パンツやストールをかけるのにも便利なバー付きのシャツハンガー。2種類が客室のクローゼット内で活躍しています。

  • 05 材料効率を高めるため、1本の角材を2つに分け、再びつなぎ合わせる。
    05
  • 06 つなぎ合わせたハンガーは、サンドペーパーの目を段々と細かくし、ツルツルになるまで磨く。
    06
  • 07 色を塗る工程を経て乾燥、フックの装着などが行われる。
    07

通常のハンガーの工程:

  • 05材料効率を高めるため、1本の角材を2つに分け、再びつなぎ合わせる。
  • 06つなぎ合わせたハンガーは、サンドペーパーの目を段々と細かくし、ツルツルになるまで磨く。
  • 07色を塗る工程を経て乾燥、フックの装着などが行われる。
  • 08 一枚の厚い板から、まずは形に切り出す。
    08
  • 09 ハンガー作り30数年、カンナがけ10年のベテラン、田中さんが手の感覚だけで削り出していく。
    09
  • 10 右が一枚板から削り出した一本物ハンガー。左が2つのパーツをつなげたシャツハンガー。
    10

「瑞風」のハンガーの工程:

  • 08一枚の厚い板から、まずは形に切り出す。
  • 09ハンガー作り30数年、カンナがけ10年のベテラン、田中さんが手の感覚だけで削り出していく。
  • 10右が一枚板から削り出した一本物ハンガー。左が2つのパーツをつなげたシャツハンガー。

「瑞風」の調度品や壁の色に合わせ、明るめのブラウンカラーに調色。動いている車内であることを考慮して、フックは別誂えになっています。「従来のハンガーの金具も抜けることはありませんが、常に動く車内で使われることを考慮し、さらに木に埋め込む部分を長く伸ばして耐用性を高めました」。ハンガーの顔とも呼ばれる正面の溝には、ロゴがレーザーで刻印されています。

11 職人の技で丹精込めて作られた「瑞風」のハンガー。
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12 「瑞風」ロゴの刻印。
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  • 11職人の技で丹精込めて作られた「瑞風」のハンガー。
  • 12「瑞風」ロゴの刻印。

「服をいかにきれいに見せるか。また、お客様が大事にされている服のかたちを美しく保つことがハンガーの役目です。社名には『工芸』がついていますが、私たちは飾り物をつくっているわけではありません。でも、私たちのつくるハンガーは美しく、一生ものです。クローゼットの中という、普段は目につかないところにある物ですが、人生を共に歩む品として、ふとした瞬間に目をとめて頂けたらこれ以上光栄なことはありません」。

「瑞風」によせて

中田工芸株式会社 代表取締役社長 中田修平私たちは、「世界一のハンガー屋」を目標にモノづくりを続けています。創業73年ですが、決してそこで満足しているわけではなく、100年、150年と続くメーカーでありたいと、一同、心を一つにしています。工場の社員食堂の窓からは「瑞風」が走り抜ける姿を見ることができます。私たちが頑張っている時にふと外を見ると、「瑞風」も走っている。こんなに励まされる光景はありません。一緒に未来に向かっていく、そんな存在になりたいと思っています。

中田工芸株式会社 代表取締役社長 中田修平

中田工芸株式会社 代表取締役社長 中田修平

Information

中田工芸株式会社

住所
〒669‐5301 兵庫県豊岡市日高町江原92
Tel
0796-42-1131

月~金曜日(9:00~17:00)繁忙期は土曜営業あり

アクセス
山陰本線にて江原駅下車 東口より徒歩1分
ホームページ
http://www.nakatahanger.com

中田工芸株式会社

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